グローバリズムと移住 (映画感想)

2017年8月10日木曜日

海外生活

(XAIPETE! ドクメンタ14より。ギリシャの捕虜がドイツにたどり着いたときに実在した門の再現)

いつのまにか前回の投稿から月日が流れてしまった!
最近観た映画を「グローバリズムと移住」というテーマでまとめてみたいと思います。

ご紹介する映画
•中国のゴッホ (China's Van Goghs)
•ダンサー : セルゲイポルーニン、世界一優雅な野獣
•Stefen Zweig : Farewell to Europe

中国のゴッホ(China's Van Goghs)


複製絵画の生産地、中国の大芬(ダーフェン)油画村の画家たちを描くドキュメンタリー映画。登場人物たちは長い年月ゴッホの絵を描いてきた。こうした絵画はヨーロッパなどのお土産屋で売られていて、彼らの仕事も世界の工場としての絵画の大量生産という側面が強い。しかし画家たちの思いはそうした側面を忘れさせるほどに熱い。いち画家としてのプライドを持って絵画を制作している。ゴッホに思いを巡らせ、遠いヨーロッパに思いを巡らせながら自分たちの絵に葛藤する。そんな彼らにヨーロッパ訪問のチャンスがやってくる。観たことがなかった本物のゴッホの絵、ゴッホの描いてきた風景、自信を持って描いてきた彼らの絵を売る土産屋などを目の当たりにし、歓喜と失望の念が入り交じる。

この映画はまさにグローバリズムの中で与えられた役割を映し出すと共に芸術という社会のシステムから外れた領域からの視点を通してシステムには収まりきらない世界の工場の労働者の個人の感情、情熱を描いている。それはなんとなくシステムの中の中国の役割の変化を描き出しているようでもあった。システムは自分とはかけ離れた世界のもののような気がするが案外そう遠くもないところにあって気づかないだけかもしれない。私のよく通るアムステルダムの街角で大芬の画家たちが失望したように。


ダンサー : セルゲイ・ポルーニン、世界一優雅な野獣



ウクライナ出身のバレエダンサー、セルゲイ・ポルーニンのドキュメンタリー映画。幼少期から現在までを描く。セルゲイはイギリスのロイヤルバレエの史上最年少プリンシパルダンサーで人気絶頂の中バレエ団は息苦しいと突如退団した問題児。貧しい国の貧しい家庭から希望を背をってロンドンにやってきた天才ダンサーの自身の葛藤、家族、友人たちの声から見えてくる素顔と本質に迫る映画。

この映画も中国のゴッホ同様に貧しい国から裕福な国へのチャレンジが描かれている。
こういう環境のなかでは才能があるダンサーが見いだされるのも、チャンスをつかむのも決してシンプルな道のりではない。家族全員の期待が一人の少年にのしかかる。家族もこの少年のために犠牲になる。そんなことを知っているからこそ才能のある少年は更に成功のために自分を追い込んで行く。飛び抜けた才能があるあらゆる人に平等にチャンスがあるわけでない。ロンドンで就職活動をしていたとき、ビザが原因でうまくいかなかった。そんなときもっと飛び抜けていたらビザなんてたいした問題じゃないんだろうとずっと思っていた。こんな彼も大成功を収めたロイヤルバレエを抜けてから荷物をとるのにイギリスに帰るのを友人に助けてもらうぐらいに苦労をしていた。世界では夢を追いかけることができる人ですら自由ではない人が大半で、自由に夢を追いかけられる人が一握りなんだろう。ちなみに彼がロイヤルバレエでプリンシパルに上り詰めて、退団するまでロンドンにいて、何度かロイヤルバレエを見に行っていた。彼の存在はとても遠くに感じるが、もしかしたら私も彼のダンスを観ていたのかも。


Stefen Zweig : Farewell to Europe


第一次世界大戦を経験したオーストリアの当時非常に有名だったユダヤ人文筆家、シュテファン・ツヴァイクが第二次世界大戦前にオーストリアから亡命して、イギリス、アメリカ、ブラジルと渡り歩く。ヨーロッパの現状に不安を抱きながら故郷を捨てて新しい住処を探す。シュテファン・ツヴァイクの晩年を実話を基に描く。

この映画を観るまでシュテファン・ツヴァイクについて何も知らず、いまも申し訳ないぐらいにほとんど知らないのだが、当時ドイツ語圏のみならず世界中でベストセラーを発表していたユダヤ人文筆家である。彼は1800年代末のユダヤ人に対して寛容だったウィーン生まれ。第一次世界大戦を経験し、平和主義者であった。当時のウィーンは迫害されてきた他のユダヤ人が集まり大きな知識人コミュニティができており、ユダヤ人という国に依存しないアイデンティティや寛容なウィーンのなかにいることで自身はヨーロッパ人であるという感覚が強くヨーロッパがひとつになること、平和が訪れることに希望を持っていたがナチズムの台頭によりオーストリアからの移住を余儀なくされた。しかし全く新しい土地での暮らしに戸惑い、遠くから聞こえてくる不穏なニュースに失望していく。戦争でアメリカや南米に亡命したユダヤ系ドイツ人やヨーロッパ人は実に多いのだが、戦争で日常生活を無理矢理奪われ、運良く亡命できても新しい土地で完全にリセットできるわけではない。故郷に今後帰れる展望があるわけでもない。時折出てくるシュテファンのドイツ語圏から亡命した知人たちとのちょっとした会話や他の亡命者たちの噂話から亡命生活が楽ではないということが伝わってくる。ヨーロッパではイギリスのEU離脱で現在も不穏だ。どこかで突然日常生活が剥ぎ取られてしまう人もでてくるだろう。ヨーロッパに難民として来た人々はどういう思いで祖国を離れたのだろう。ヨーロッパの今後と移住とはなにかについて考えさせられる映画だった。


現在人の動きはもっと自由になりわたしもその恩恵を受けていますが、この三映画はそのなかのまだまだ変わらない格差や祖国を離れることの辛さなどが描かれています。人はなぜ祖国を離れるのでしょうか。なぜ自分は祖国を離れるのでしょうか。そんなことを深く考えるきっかけになったように思います。

Search this blog

hello

 

ヨーロッパをうろうろしてしてる人

Blog Archive

QooQ